ELIS&TOM – Antonio Carlos Jobim & Elis Regina

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最高に素敵なボサノヴァアルバム

ELIS REGINA エリス・レジーナと、ボサノヴァの第一人者ANTONIO CARLOS JOBIM アントニオ・カルロス・ジョビン(トム)が共演した名盤。全曲ジョビン作で、ボサノバ最盛期から15年近く経った1974年にアメリカのロサンジェルスでの録音です。

トムはカイミ一家との共演アルバム〔CAYMMI VISITA TOM カイミ・ヴィジタ・トム〕でも”Inutil Paisagem”と”So Tinha De Ser Com Voce”の2曲をやっています。そちらは切なさと物憂さが強いですが、ELIS&TOMヴァージョンは湿気少なめです。物憂い曲もエリスが歌うと明るさが出るのかもしれません。
この2曲に限らずこのアルバムは全体的に、サウダーヂ的な物憂げな雰囲気と、明るさのバランスがちょうどよく、誰でも聴きやすいアルバムだと思います。
録音時のジョビンとエリスは、互いに個性が強いせいか険悪な雰囲気だったそうですが、そんなことは微塵も感じさせない、楽しげな幸せ感が漂っています。

Águas de Março 三月の雨

[1]三月の雨は、世界中で演奏され続けている有名曲ですが、私はこのアルバムのデュエットが一番好きです。会話するかのようなかけあいが絶妙で、途中にふざけるように笑いながら歌うエリスのヴォーカルもたまりません。
これは後の歌手に影響を与えているとも思います。フランス人女性シンガークレモンティーヌが歌う同曲でも、会話のように相手とかけあいしながら笑い出していて、このエリス&トムのデュオを意識しているように思えます。オマージュでしょうか。

フランス人といえば、ナラ・レオンと共演したこともあるフランス人歌手George Moustaki ジョルジュ・ムスタキも、この曲をフランス語で歌っています。かなりフレンチ色が濃くてボサノヴァの印象は薄くなっています。ちょっと面白かったのは、歌詞の季節の変化です。
南半球のブラジルでは三月は秋だから「三月の水=雨で夏が終わる」ですが、北半球のフランスでは「三月の水」といえば春の雪解け水で、その違いが歌詞にも反映されています。ちょっとさびしい秋の始まり(ブラジル)と、これからベストシーズンになる春(フランス)とでは、イメージがずいぶん変わります。

エリス・レジーナは曲やアルバムによって雰囲気がかなり違いますが、アップテンポで豪快・開放的なヴォーカルを聴くなら『エリス・イン・ロンドン』、ゆったりくつろいだチャーミングなヴォーカルならこの『ELIS&TOM』が一番好きです。

私が持っているCDは以下の曲順。楽しく始まってしんみり終わります。

1. Aguas De Marco 三月の雨
2. Pois E 愛の終り
3. So Tinha De Ser Com Voce あなたでなければいけなかった/私はあなたのもの
4. Modinha モヂーニャ
5. Triste 悲しみ
6. Corcovado コルコヴァード
7. Que Tinha De Ser 愛につつまれて
8. Retrato Em Branco E Preto 白と黒の肖像
9. Brigas Nunca Mais もう決して喧嘩はしない
10. Por Toda A Minha Vida 私の愛のすべてを
11. Fotografia 海辺のテラス
12. Soneto De Separacao ソネットの一節
13. Chovendo Na Roseira ばらに降る雨
14. Inutil Paisagem うつろな風景

«エリス&トム(ばらに降る雨)»

1974 Antonio Carlos (Tom) Jobim & Elis Regina

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