VINCENT DELERM (1st album)

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文学的、ヌーヴェルヴァーグ映画的

ヴァンサン・ドレルムのファーストアルバムは、ジャケットも白黒映画風ですが、店名や人名などを織り交ぜた歌詞も、街の風景を背景に日常生活を描いたヌーヴェルヴァーグ映画のよう。
彼は、「日常生活の小さな出来事は政治や社会レベルとは別問題だけど、同じくらい大切だ」というようなことを話していました。エリック・ロメールなどのヌーヴェルヴァーグ映画に通じるものがあります。

このアルバムには、映画好きなら「お!」と反応してしまうポイントがあります。例えば、雨の日、フランス北部の海沿いの街ドーヴィルで過ごす倦怠感たっぷりの男女の話、[10]DAUVILLE SANS TRINTIGNANT(=トランティニャンのいないドーヴィル)。(歌詞
タイトルで分かるようにクロード・ルルーシュの映画『男と女』を意識していて、映画中のジャン=ルイ・トランティニャンのモノローグを曲に取り入れています。映画を見た人は、物憂いブルーに包まれたドーヴィルの情景が思い浮かぶはず。
笑えるポイントも多い洒落たフィルムですが、フランスでは、この映画や、古いヌーヴェルヴァーグ映画は(一部を除けば)、シネフィル(映画好き)と、1960年代にリアルタイムで見た世代しか知らないようです。映画マニアでない日本人が黒澤や小津をあまり見ていないのと似ています。このヴァンサン・ドレルムの曲がヒットしてラジオでもよく流れているので、そういう映画も少しは知名度が上がったかもしれませんが。

フランス人が古いフランス映画を持ち出すなんて珍しいなと思いましたが、それもそのはず。
Vincentはかなりの映画好きで、大学の文学部(修士)ではフランソワ・トリュフォー研究をしていたんだそうです。ちなみに父親は、日常を切り取るのが得意な作家 Philippe Delerm フィリップ・ドレルムです。

[1]FANNY ARDANT ET MOI ファニー・アルダンと僕には、映画関連の名前が直接出てきますし、
[6]COSMOPOLITAINには、キシェロフスキ監督映画でもおなじみの女優IRENE JACOB イレーヌ・ジャコブが参加しています。

セルジュ・ゲーンズブールに通じるごりごり感のある声と、わざとひねるような癖のある歌い方には好き嫌いがありそうですが、古いフランス映画が好きな人なら楽しめそうなアルバムです。

1. Fanny Ardant Et Moi
2. La Vipere Du Gabon
3. Chatenay Malabry
4. Categorie Bukowski
5. Tes Parents
6. Cosmopolitan(Irene Jacob)
7. Slalom Geant
8. Le Monologue Shakespearien
9. Charlotte Carrington
10. Deauville Sans Trintignant
11. L’heure Du The

«ヴァンサン・ドレルム»

2002

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