DEZ ANOS DEPOIS – NARA LEAO

1971年亡命先のパリでの録音。ナラ・レオンの中で一番好きなアルバムです。
オリジナルと同じく2枚に分かれたCDと、1枚にしたCDがあります。

若い頃のナラ・レオンの広い豪華マンションがボサノヴァ創始者といわれるミュージシャンたちのたまり場となっていたのは有名な話。ナラはそういう環境で育ちつつも、ボサノヴァは金持ちブルジョワ的で現実から目をそらしていると感じるようになっていったそうで、1964年のファーストアルバム”NARA”の録音時にはすでにボサノヴァから離れていて、その後、反政府的プロテスト・ソングを歌うようになり、政府ににらまれてフランスに亡命します。
そこで懐かしいボサノヴァの良さを再認識して録音したのがこの『美しきボサ・ノヴァのミューズ』（原題DEZ ANOS DEPOISは「10年後」の意味）だそうで、ナラ･レオンの正式なボサ・アルバムとしては一作目ということになります。地理的に遠く離れた故郷と、ボサノヴァ仲間に囲まれていた子供時代を思っているせいか、切なさとノスタルジーがただよっています。
これ以降は、ジャンルにとらわれずいろいろな曲を自分流に歌い、素敵なアルバムを出しています。

さて、アストラッド・ジルベルトに歌を教えたのはナラ・レオンだといわれていて、力を抜いて優しく自然な感じで歌っているあたりは共通しています。アストラッドはヘタウマすれすれのあぶなっかしさが可愛いですが、ナラ・レオンのヴォーカルには、安定感と、包み込むようなあたたかみと、陰影があります。環境に甘んじないでいろいろな経験をした彼女だから出る深い味かもしれません。